不動産取引における取消しと無効【善意・悪意・無過失・有過失によるそれぞれのケース】

不動産取引とは、契約の当事者(売主や買主など)がお互いに債務を負担する形で行う有償契約です。
つまり、法律に基づいた双方向による取引であり、一方的で強引な取引はその過程に瑕疵(欠陥)があったものとして、取消しや無効となります。

取消し・無効となるケースとしては、心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺・強迫による取消し、公序良俗違反の法律行為、取消権の消滅時効が主として挙げられます。

勉強

心裡留保とは、冗談やウソのように、真理と違うことを自分で知りながらする意思表示のことを表します。
たとえば、Aが自分の土地を売るつもりもないのにBに「売ってあげる」と言ってしまった場合。
Aは自分自身では売るつもりがないにせよ、Bは本当に信じ込んでしまったりします。
こういった場合、基本的にはBを保護するため、Aの意思表示は有効となります。

しかし、Aが土地を「100円で売ってあげる」とお酒の席でふざけながら言っていた場合はどうでしょう。
これはBも明らかにそれがウソと分かります。
こうした場合、その取引は無効となります。
つまり、Bがその真意を知っていたり(悪意)、または不注意(過失)によって知らなかった場合(善意有過失)は、特にBを保護する必要がないので、取引を無効としています。

ここで言う善意とは、ある事情を知らないこと、または真実でないことを誤信することを意味します。
悪意とは、ある事情を知っている場合です。
普段、日常生活では善意=良い行い、悪意=悪い行いと捉えられがちですが、法律用語の善意・悪意は意味合いが少し違ってくるので、気をつけたいところです。
また、善意有過失とは十分に気をつけなかったため知らなかった場合を意味し、善意無過失とは十分に気をつけたが知らなかった場合を意味します。

虚偽表示とは、債権者の差押(強制執行)を免れる際の、意思の不存在です。
そのような形での架空売買契約を、虚偽表示または通謀虚偽表示と言います。
たとえば、借金を返せずBから土地を取られてしまいそうになったAが友人Cと通謀して自分の土地の名義をCに変えて、Bからの差押を免れようとした場合などです。
このように相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効となります。

ただし、善意の第三者に対しては、この意思表示の無効を対抗(主張)できません。
たとえば、先程の例でCが土地を「自分の土地だ」と称して他の人Dへ売却してしまった場合。
Dは、AとCの間の虚偽表示を知りません(善意)
この場合、あとになってAがDに「それは実は自分の土地なんだ、返してくれ」と言っても、土地の所有権を対抗できません。
つまり、土地の返還を求めることはできないのです。

尚、DがAC間の虚偽表示を知っていた場合(悪意)、AはDに対して土地の返還を求めることが可能です。
ただし、この悪意のDが更に他の人Eに譲渡した場合、その転得者Eは虚偽表示による経緯を知らなかったのであれば善意として保護され、Aからの返還請求があっても所有権を対抗できます。
簡単に言えば、最初は虚偽表示による売買契約だったとしても、そこから転売されていった先の買主が善意であれば保護される・元々の持ち主に所有権を対抗できる、という形です。

勉強2

錯誤とは、思い違いにもよる取引です。
たとえば、分譲マンションの405号室を買うつもりだったのに、504号室の買受けの申込をした場合のように、表示と内心の意思との不一致があり、このことを表意者自身(勘違いした人)が気づいていなかった場合に”錯誤がある”と言います。

注意点としては、法律行為の要素に錯誤があれば、その意思表示は無効となります。
勘違いがささいな場合にも表意者を保護するのは行き過ぎですから、取引の重要な部分に錯誤がある場合(その錯誤がなければ、契約をしなかっただろうと思われるような重要な部分に勘違いがあった場合)にのみ、表意者は無効を主張できるとしています。
この重要な部分に錯誤があることを”要素の錯誤”と言います。

また、このように要素の錯誤がある場合でも、表意者に重大な過失があるときは、無効の主張はできません。
錯誤の無効を主張できるのは、表意者本人のみです。
したがって、表意者に重大な過失があって無効主張できないときは、相手方や第三者も無効主張できません。

詐欺・強迫による取消しとは、表意者が詐欺または強迫によって意思表示をした場合です。
たとえば、AがBをだまして相場価格より土地を激安で買い上げてしまった場合や、恐怖を感じさせる言動や態度によってAがBに無理やり土地を安く売却させた場合などです。
こうした場合、BはAとの売買契約を取り消すことができるとしています。
詐欺及び強迫によってなされた契約は取り消すことができるのです。
そして、詐欺による取消しは、取消し前の善意の第三者に対抗できません。

たとえば上記の例で、AにだまされたBが契約を取り消す前に、Bからその土地を購入したCが詐欺の事実を知らなかった場合(善意)、BはAとの契約を取り消したとしても、善意のCに土地の返還を請求することはできないのです。
尚、強迫による取消しは、取消し前の善意の第三者にも対抗できます。
強迫の場合には脅されて無理やり意思表示をさせられたのですから、善意の第三者よりも強迫された人を強く保護しています。

また、詐欺及び強迫による取消しは、取消し前の悪意の第三者には対抗することができます。
そのような事情を知っている第三者を保護する必要はないからです。
判例によると、対抗問題となるのは取消し後の第三者との関係です。
この場合は、二重譲渡と同じように考えられ、BかCのどちらか先に登記を備えた方が優先することになります。

ちなみに、売買の当事者以外の第三者が詐欺をした場合
たとえば、第三者Cが土地所有者Aをだました結果、Aが土地をBに売ってしまったようなケースを第三者詐欺と言います。
このようなケースでは、相手方Bが詐欺の事実を知っているとき(悪意)に限り、Aは取消しできます。
尚、第三者からの強迫、”第三者強迫”に関しては、相手方の善意・悪意を問わず取消しできます。

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公序良俗違反の法律行為とは、拳銃や麻薬の売買、愛人を囲う契約等をすることです。
このような行為は反社会的な行為なので、民法では効力を一切認めていません。
尚、この無効は善意の第三者にも主張可能です。

取消権の消滅時効とは、追認することができるとき(行為能力者になったとき等)から5年、または行為(契約等)のときから20年のいずれか先に経過すると、取り消すことができなくなります。
したがって、契約は始めから有効であったものとみなされます。

上記が取引に欠陥があり、取消し・無効となる主なケースです。
取引が有効かどうかは、売主・買主双方の行為能力や意思表示を前提としたうえで、意思表示の完全性(意思の不存在がなかったかどうか、意思表示に欠陥がなかったかどうか)といった点と、目的の確定可能性・実現可能性・適法性の観点で検証されます。

意思表示に関しては宅建試験の民法でもよく出ますし、不動産実務でも重要な部分にあたります。
これから宅建試験を受けられる方不動産業界へ就職・転職される方は、ぜひ押さえておきましょう。